ま と め
◎高炭素クロム軸受鋼SUJ2(焼なまし)

1.実験の目的

試作セラミックス工具(TiCN-30TiB2)の、高炭素クロム軸受鋼SUJ2焼なまし材に対する切削性能の検討を行う。

2.被削材

高炭素クロム軸受鋼は玉軸受およびころ軸受の外輪、内輪、転動体(玉、ローラ)に多く使用される。Crを含む1%C過共析鋼で、製品の用途、大きさに応じてCr、Mn、Si量を調整あるいはMoを添加し、焼入性を与え、軸受としての必要な硬さ、転動疲れ寿命、耐摩耗性が得られるようにする。SUJ2は焼入性の点から中寸法以下のものに使用され、主として熱間圧延鋼材から鍛造および切削によって加工される。表1に使用した高炭素クロム軸受鋼SUJ2焼なまし材の化学成分と機械的性質を示す。

3.工具材

1に使用した試作セラミックス工具(TiCN-30TiB2)。および比較用工具サーメット(TiN-TaN系)の成分と機械的性質を示す。前者は後者に比べて、硬度はかなり高いが、抗折力は約半分程度と大幅に小さい。図1に切削前の工具すくい面の状態を示す。

4.実験結果と考察

(1)工具損傷形態

2はSUJ2切削時の工具損傷状態を示す。サーメット(TiN-TaN系)[以下、サーメット(TiN系)と略記する]には200m/minから400m/minにかけて全ての切削速度領域で、顕著なクレータ摩耗が現われているのに対して、セラミックス(TiCN-30TiB2)[以下、セラミックス(TiCN系)と略記する]にはほとんど現われていない。このことから後者は前者に比べて耐拡散性に優れていると言える。また、セラミックス(TiCN系) の逃げ面摩耗量はサーメット(TiN系)に比べて少ないが、セラミックス(TiCN系)には切削中に刃先の欠損やチップの割れが起こった。さらに、サ一メット(TiN系)の場合には、境界摩耗が前逃げ面および横逃げ面の両方に200m/minから400m/minにかけて一様に現われるが、セラミックス(TiCN系)の場合には400m/minのみに現われている。このことから、後者は前者に比べて耐酸化性に優れていると考えられる。

(2)工具摩耗進行曲線

3にSUJ2切削時の前逃げ面および横逃げ面の工具摩耗の進行状態を示す。サーメット(TiN系)は切削速度200m/min、300m/minでは横逃げ面摩耗の増大で寿命にいたり、寿命は短い。そして、400m/minではコーナーR部中央の摩耗が激しく切削時間1分で寿命に至る。図2および図3より、サーメット(TiN系)の適正切削速度は200m/minよりかなり下にあるものと推察される。これに対して、セラミックス(TiCN系)は切削速度300m/minにおいてもかなりの耐摩耗性を示すが、逃げ面摩耗が増加すると刃先の欠損や割れが誘発され、そのため工具寿命に至る傾向にある。

(3)切削仕上げ面

4に切削開始直後のまだ工具摩耗が少ない時点でのSUJ2切削仕上げ面の状態と断面曲線を示す。セラミックス(TiCN系)による仕上げ面粗さは切削速度に依存せず一定であるが、サーメット(TiN系)による仕上面粗さは切削速度が高くなると大きくなっている。

(4)切りくず

5にSUJ2の切りくずを示す。サーメット(TiN系)もセラミックス(TiCN系)も同じ様な寸断されたカール状の切りくずになり、両者に顕著な差は認められない。セラミックス(TiCN系)、400m/minの時はチップが切削中に割れたため他と異なった切りくず形状になったものと考えられる。

(5)切削抵抗

6にSUJ2切削時の切削抵抗の1例を示す。主分力はほぼ同じであるが、送り分力と背分力はセラミックス(TiCN系)の方がサーメット(TiN系)よりもやや大きい。また切削抵抗の変動はセラミックス(TiCN系)のほうがやや大きい。この原因はチャンファー部の相違によるものと思われる。

5.結論

(1)サーメット工具(TiN-TaN系)のSUJ2焼なまし材に対する適正切削速度は200m/min以下であると推定される。

(2)試作セラミックス工具(TiCN-30TiB2系)はサーメット工具(TiN系-TaN系)に比べてSUJ2焼なまし材に対する耐拡散性、耐酸化性、耐摩耗性に優れており高速切削に適した面が認められるが、脆さのため、チッピング、欠損、割れが発生しやすい。