ま と め
◎ニッケル基耐熱合金 インコネルX750 (固溶化処理)

1.実験の目的

焼結CBN(CBN系)の、ニッケル基耐熱合金インコネルX750(固溶化処理)に対する切削性能の検討。

2.被削材

 インコネルX750はジェットエンジン、ミサイル、炉など高温強さと、耐酸化性が必要な部分に使用される。ニッケル、クローム、鉄を母体としたいわゆるインコネルに、チタン、アルミニウムを添加した耐熱合金である。表1に使用したインコネルX750生材の化学成分と機械的性質を示す。

3.工具材

表1に使用した焼結CBNおよび比較用工具材超硬合金(WC-Co系、WC-Co-TiC系)、コーティング(Al203系、TiCN系)の成分と機械的性質を示す。焼結CBN工具は他の工具材に比較して、坑折カは極めて小さいが、硬度は著しく高い。図1に切削前の工具すくい面の状態を示す。

4.実験結果と考察

(1)工具損傷状態

2はインコネルX750切削時の工具損傷状態を示す。     
 いずれの工具も切削速度25m/min〜150m/minにおいて、工具逃げ面摩耗は正常な摩耗形態で進行せず異状摩耗を示し、切削初期から切削終了時まで工具切刃稜から掬い面にかけて切屑の溶着と離脱を繰り返し横逃げ面境界部切刃稜にチッピングや欠損を起こし、図2に見られる様な摩耗形態で進行している。なおこの現象は切削速度が高くなるほど顕著である。特に焼結CBN工具は他の工具材に比べて、溶着、離脱に対する靭性が劣っている。

(2)工具摩耗進行曲線

3はインコネルX750切削時の横逃げ面および前逃げ面の工具摩耗の進行状態を示す。横逃げ面摩耗をみると切削速度25m/minでは、超硬合金系統が良く次にコーティング系統の順になっている。切削速度50m/minでも同様で次に焼結CBNの順である。切削速度100m/minになると焼結CBN、コーティング(TiCN系、Al203)が良く、超硬合金系統は図2に見られる様に逃げ面摩耗が大きいため刃先端位置が大きく後退している。切削速度150m/minでの焼結CBN工具は、主切刃部に大きな欠損を起こし切削時間1minで寿命にいたる。

(3)切削仕上げ面

4はインコネルX750の切削仕上げ面を示す。仕上げ面プロフィルに示すように切屑の溶着、離脱の影響をうけ仕上げ面粗さが悪い。また、切削面には溶着物が点在している。一方、切削条痕が鮮明で粗さが一定なものでも理論粗さ値1.56μmよりは大きい。以上の結果から比較的、仕上げ面が良いのはコーティング(TiCN系)であった。

(4)切り屑

5に切屑の状態を示す。コーティング(TiCN系)には粉状切屑が見られるが、大半は平面螺旋状、斜め螺旋状、もつれ状の切屑になっている。
 また一部には切屑のスティク・スリップも見られる。

(5)切削抵抗

6に各種工具の切削時間と切削抵抗の推移を、図7は切削時間1minでの切削抵抗(主分力、送分力、背分力)を記録したものである。
 各種工具とも工具摩耗の進行とともに各分力とも増大する。中でも切削速度100m/min時におけるコーティング(Al203系、TiCN系)の背分力の増加は著しい。

5.結論

(1)焼結CBN工具は他の切削工具に比較して靱性が著しく劣るために、切刃部の欠損、摩耗が大きくインコネルX750主材に対する切削には不向きと、思われる。

(2)超硬合金工具、コーティング工具の適性切削速度は50m/min以下にあると推定される。