ま と め
◎ステンレス鋼SUS304(固溶化処理)

1.実験の目的

試作セラミックス工具(TiN-30TiB2)および(TiCN-30TiB2系)の、ステンレス鋼SUS304固溶化処理材に対する切削性能の検討を行う。
  本実験では、試作セラミックスの高速軽切削における切削性能を探る意味で、超硬工具の実用切削速度よりも高い速度領域で切削した。

2.被削材

オーステナイト系ステンレス鋼SUS304は、耐食性に優れているため、化学工業を始めとして、建築装飾品、家庭用器具等に幅広くまた大量に使用されている。しかしこの材料は、炭素鋼に比べると、加工硬化性が大きい、切削温度が高くなる、切削工具と溶着・圧着し易い、びびりが発生し易い等の、切削し難い要因を数多く持っており、いわゆる難削材と言われている。表1に使用したオーステナイト系ステンレス鋼SUS304固溶化処理材の化学成分と機械的性質を示す。

3.工具材

1に使用した試作セラミックス工具(TiN-30TiB2)、(TiCN-30TiB2系)および比較用工具超硬P20(WC-Co-TiC系)の成分と機械的性質を示す。試作セラミックス工具は2種とも比較用工具に比べて、硬度はやや高いが、抗折力は半分以下と大幅に小さい。図1に切削前の工具すくい面の状態を示す。

4.実験結果と考察

(1)工具損傷形態

2-1および図2-2はSUS304切削時の工具損傷状態を示す。超硬(WC-Co-TiC系)工具は、切削速度120m/minにおいては安定した状態で切削が行われたが、切削時間30分の少し手前で前逃げ面に欠損が生じた。切削速度180および230m/minの高速域では顕著なクレータ摩耗が現れるが、それぞれ20分間、10分間の切削が可能であった。また全ての速度域で、横切れ刃の境界部に小規模の損傷が認められた。
  セラミックス(TiN-30TiB2)工具は、切削速度120、180、320m/minのすべての速度域で、横逃げ面の境界部に大きな欠損が発生したので1〜2.5minで切削を中止した。
  セラミックス(TiCN-30TiB2)工具は、セラミックス(TiN-30TiB2)と同様に横切れ刃境界部の欠損がはげしく、1〜5minの短時間で切削を中止した。
  2種の試作セラミックス工具(TiN-30TiB2)と(TiCN-30TiB2)が、横切れ刃境界部で欠損しやすいのは、被削材SUS304の加工硬化した部分を切削するとき、工具の靱性が不足していることにより欠損がおこるものと考えられる。

(2)工具摩耗

3に、SUS304切削時の超硬工具(WC-Co-TiC系)の摩耗進行状曲線と、寿命判定基準をVB=0.2mmと仮定した時の、寿命曲線を示す。

(3)切削仕上げ面

4にSUS304切削時の、切削開始直後の仕上げ面の写真と断面曲線を示す。超硬工具(WC-Co-TiC系)の切削仕上面は、すべての速度域でほとんど変わらない。これに対して、試作工具の切削仕上面には工具損傷の影響が現われており、一定ではない。

(4)切りくず

6にSUS304を超硬(WC-Co-TiC系)で切削したときの切りくずを示す。寸断されたカール状の切りくずで、切削速度による形状の変化は認められない。

 (5)切削抵抗

測定せず。

5.結論

 (1)超硬(WC-Co-TiC系)工具は、工具の横切れ刃境界部に小規模の損傷と、高速域においてクレータ摩耗の顕著な発生は認められるが、比較的安定した切削が可能である。ただし、加工の目的にもよるが、60min程度の長寿命を期待するならば、100m/min以下の切削速度が望ましいと思われる。

 (2)試作したセラミックス工具((TiN-30TiB2)と(TiCN-30TiB2系)は、耐摩耗性には優れている面が認められるが、切削開始の初期段階で横切れ刃境界部に欠損が起こりやすく、SUS304の切削は困難である。
 
 この欠損の原因は、工具の靱性の不足と、被削材SUS304の高い加工硬化性によるものと考えられる。